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ピーター・S・ビーグル
Peter S. Beagle
(1939〜 )
心地よく秘密めいたところ風のガリアード
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心地よく秘密めいたところ
A Fine and Private place
(1960)
山崎 淳訳/創元推理文庫 (1988)/ISBN 4-488-54801-6
story ニューヨークのヨークチェスター共同墓地に十九年間も隠れ住んでいる中年のジョナサン・レベック。鴉が食料を運んできて彼を養っている。レベックは鴉や死者たちとも話をすることができた。また一人、墓地に埋葬された後も物事を忘れ去ることに抵抗し、生にしがみついたマイケル・モーガン。二人の他、亡き夫の墓参りに来た中年のクラッパー婦人、交通事故で亡くなったローラ、墓場の守衛カンポス。彼らの織り成す不思議なラブ・ストーリー。

review 死人たちは墓地に拘束されており、主人公のレベックも世捨て人として暮らしているうちに外の世界を恐れるようになりました。そのため、ほとんど墓地を舞台としてストーリーが展開していきます。登場人物も少なく半数は死人ですが、おどろおどろしさは全くと言っていいほど無く、さっぱりとしています。マイケルとローラの死人ふたりが特に喋りまくるので騒々しいくらいです。
 時折、登場人物たちの年齢や人格が設定を超越しているのではないかと思える場面があります。当時十九才だった作者自身が登場人物を透かして見えるような気がします。
 さて、レベックにとって墓地とはモラトリアムそのものだと思います。現実(過去のトラウマ)から身を守る安全な避難場所。一時の避難のつもりが居着いてしまった。また、マイケルの死後の行動もモラトリアム特有と言って良いかと思います。ローラについてはローラ自身の言を借りると“夜眠る前の最後の一分間にとてもよく似ているの。(中略)楽で気持ちよく、とっても素敵なの。でも、すべて大丈夫だって確認するまでは、目を覚ましているでしょ。” レベックやマイケルとはちょっと異なるものの、ローラの言動もモラトリアムの意味するところの猶予期間に当てはまると思います。
 切なく寂しい気持ちにはなりますが、ユーモアも温かみもある作品です。
 ストーリーは後半になって意外な盛り上がりを見せます。ある人物の唐突な感情の高まり・変化には戸惑いも覚えますが、結構リアリティがあるかも知れません。
 ついでに一言。この作品を読み終えたら、きっと鴉を見かけても嫌な鳥には思えないでしょう。愛おしい感情すらちょこっと持つかも知れません。
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風のガリアード
The Folk of the Air
(1977)
山田 順子訳/ハヤカワ文庫FT (1992)/ISBN 4-15-020160-9
story リュート演奏家のファレルは、旧友のベンを訪ねて学生時代を過ごした街に戻ってきた。街には<古代の娯楽を追求する連盟>という中世の騎士や貴婦人の格好をして楽しむ変わった趣向の人々がいて、ファレルは彼らと知り合う。ベンの妻シアや街の人々と接していると、ファレルは非現実的な感触を抱くのだった。やがて、連盟の中で新しい王を決めるホエールマス・トーナメントが開催された・・。

review 本作品を何かに例えるなら、主人公ファレルの奏でるリュートの音色のよう。ビーグルの紡ぐ物語には心地よさがあります。ビーグルは極めて寡作な作家で作品数は少ないです。でも、とても良質なファンタジーを書きます。『風のガリアード』はファンタジーの中で最も好きな作品です。
 この物語には、中世愛好家たちの一風変わった活動を背景とつつ、ファレルの旧友ベンの妻の秘密が明らかになる過程が描かれています。ベンの妻の正体が鍵ではありますが、それよりも語り手たる主人公ファレルに注目したいです。ファレルは<ビーグルの構築した世界にやってきた>外来者であり、物語のナビゲーターです。彼は行動して人々に干渉しますが、彼抜きでも話の結末は変わらなかったでしょう。
 ビーグルは、現代と、愛好者たちによって現代に出没する中世、そしてその下層にもうひとつ、合わせて3つのレベルから成る世界を描いてみせました。ファレルの語り口は、ファレルがヒッチハイク強盗と争った冒頭のエピソードから顕著なように、どのレベルにおいてもファンタスティックです。