ニューヨークのヨークチェスター共同墓地に十九年間も隠れ住んでいる中年のジョナサン・レベック。鴉が食料を運んできて彼を養っている。レベックは鴉や死者たちとも話をすることができた。また一人、墓地に埋葬された後も物事を忘れ去ることに抵抗し、生にしがみついたマイケル・モーガン。二人の他、亡き夫の墓参りに来た中年のクラッパー婦人、交通事故で亡くなったローラ、墓場の守衛カンポス。彼らの織り成す不思議なラブ・ストーリー。
死人たちは墓地に拘束されており、主人公のレベックも世捨て人として暮らしているうちに外の世界を恐れるようになりました。そのため、ほとんど墓地を舞台としてストーリーが展開していきます。登場人物も少なく半数は死人ですが、おどろおどろしさは全くと言っていいほど無く、さっぱりとしています。マイケルとローラの死人ふたりが特に喋りまくるので騒々しいくらいです。
時折、登場人物たちの年齢や人格が設定を超越しているのではないかと思える場面があります。当時十九才だった作者自身が登場人物を透かして見えるような気がします。
さて、レベックにとって墓地とはモラトリアムそのものだと思います。現実(過去のトラウマ)から身を守る安全な避難場所。一時の避難のつもりが居着いてしまった。また、マイケルの死後の行動もモラトリアム特有と言って良いかと思います。ローラについてはローラ自身の言を借りると“夜眠る前の最後の一分間にとてもよく似ているの。(中略)楽で気持ちよく、とっても素敵なの。でも、すべて大丈夫だって確認するまでは、目を覚ましているでしょ。” レベックやマイケルとはちょっと異なるものの、ローラの言動もモラトリアムの意味するところの猶予期間に当てはまると思います。
切なく寂しい気持ちにはなりますが、ユーモアも温かみもある作品です。
ストーリーは後半になって意外な盛り上がりを見せます。ある人物の唐突な感情の高まり・変化には戸惑いも覚えますが、結構リアリティがあるかも知れません。
ついでに一言。この作品を読み終えたら、きっと鴉を見かけても嫌な鳥には思えないでしょう。愛おしい感情すらちょこっと持つかも知れません。
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